今日も歌があるから

Tiamat / T'apo Eagh / ScreenShots : http://www.flickr.com/photos/100497787@N06/

『リズと青い鳥』を見てきました

リズと青い鳥』を見てきた。
とっても良かったので内容に触れながら感想を書いていきます。
というわけで大いにネタバレを含んでいます。

はじめに

本作は「響け!ユーフォニアム」2期のあとのお話です。そのため、アニメ2期のお話が下地にある状態でお話は進んでいきます。お話のメインとなる人物は傘木希美と鎧塚みぞれの2人。また、新学期を迎えて学年が上がっており、新入生が新しく入部しています。

作品とキャラクターを印象付ける導入部分

 冒頭の約5分、殆どセリフが流れずアニメーションと環境音だけで構成されています。二人の表情や動作だけで進むこのシーンで、希美とみぞれは徹底的に対照的に描かれます。青い瞳の希美、赤い瞳のみぞれ、先に学校に着いて希美を待つみぞれ、おさげを元気よく揺らして歩く希美、黒のソックスは希美、白のソックスはみぞれ、ずんずん歩いていく希美と置いて行かれまいとするみぞれ。二人の関係性がしっかりと伝わってきます。BGMが一切なく、ローファーで床を鳴らす音、下駄箱から上履きを出す音、廊下を歩く音、衣擦れの音、部室に鍵を差し込み、回す音、無声映画のようなこのシーンが、とても美しいのだけれど、少し面喰ってしまいました。ただ、いつもの「響け!ユーフォニアム」とは全く違う作品になりそうだ、という期待を持ちました。
 

みぞれの視点から

 みぞれは、過去に希美が自分に相談なく退部した過去から希美と距離が空くことを極端に恐れており、距離を埋めようとして触れようとしたり、意見を合わせようとしたり、とにかく希美との繋がりを求めます。それを知ってか知らずか肝心なところで繋がりを拒絶する希美にみぞれは一人ショックを受け、少しずつ傷ついていく。この繊細な心情がとても眩しくて、切ない。
 作中では、希美とみぞれのように2組で描かれるグループが他にも登場します。一見仲が悪いようで互いを認め合っている夏紀と優子、魂で誓い合った仲の久美子と麗奈の2組。みぞれの境遇とは違って、いい関係を築いている2組がお話の中で時折登場することで、希美とみぞれの危うい関係が浮き彫りになっていきます。
 

リズと青い鳥

 タイトルにもなっている「リズと青い鳥」は次のコンクールの自由曲であり、同じタイトルの絵本を題材にした曲として登場します。女の子リズと出会った青い鳥はある日、人間となり、リズと一緒に暮らすことになります。楽しい日々を過ごす二人ですが、やがてリズは青い鳥のために別れを告げるというお話。
 曲の中では主に第3楽章でフルートとオーボエがリズ、青い鳥となり掛け合いをするところが大きな見せ場として描かれていました。フルートは希美、オーボエはみぞれが担当することとなり、彼女たちは自分の置かれた状況をリズ、青い鳥と重ね合わせます。リズの気持ちに共感できないみぞれは演奏にその影響が出てしまい、大いに悩みます。希美は吹けてはいるものの、みぞれと合わせることができず複雑な思いを抱きながら、少しずつすれ違う二人。二人は決別するわけでもなく、かといってべったりと一緒にいるわけでもなく、みぞれの思いとは裏腹に「普通の友だち」としての距離を保ち続けたまま、静かに静かに少しずつすぎていく時間。これが久美子の視点から描かれていたらきっと濃厚で激動の日々なのでしょうが、みぞれを通すとこんなにも薄く、淡い日々になってしまう。久美子や麗奈のような直情的なキャラクターばかりが描かれていた今までとは違い、鎧塚みぞれという女の子はあまりにも儚い世界に生きていて。作中ではひまわりが咲いたりして季節の移り変わりが分かるのですが、それが分からなくなってしまうくらい、暑さが伝わってこない。どこかひんやりとした空気を保ち続けたまま、お話は進んでいきます。
 

希美の視点から

 二人のぎくしゃくした関係に気付き始めた夏紀や優子が、それとなく二人に問いかけますが、気に留めない希美と希美に合わせてしまうみぞれ。「希美が私のすべてだから」と言い切るみぞれに言葉を続けることができない優子。少ないシーンながらも優子と夏紀はしっかり部長、副部長に成長していて頼もしかったです。
 なんとなく気まずい二人の間を縫って入ってくるのが1年生の剣崎梨々花。後輩らしい甘え方は、みぞれが希美に求めていたものなのかもしれません。つまり、なんでも一人で決めないで、たまには頼ってよ、と。梨々花は今回初登場のキャラクターでありながら、物語のアクセントになっていて、どこか冷たくて緊張感のある空気を解きほぐしてくれます。徐々に後輩に心を開いていくみぞれの様子に戸惑う希美、なんとも居心地の悪いまま、お話は終盤へ向かいます。
 

みぞれとのぞみ

 中々第3楽章の演奏がうまくいかない二人は別々の場所でお互いの本当の気持ちに気付きます。みぞれは青い鳥の気持ちを、希美はリズの気持ちを。ここで描かれるのは、二人ともリズで、二人とも青い鳥だということ。誰かの夢を後押しするだけではなく、自分の夢に向かって羽ばたくこともできる、自由な存在だということ。高校生という年齢は、まだ家や学校での出来事が人生の大半を占めていて、そこから外に飛び立つという勇気は中々持てないことだろうと思います。進路という人生の選択と、二人の関係への答えを見つけた二人、特にみぞれは大きなことに気が付くのでした。
 その後の練習で、みぞれは自分から第3楽章の演奏を申し出ます。みぞれが、滝先生に、自分からですよ。そしてそこでみぞれは、自分と希美のために今まで抑えていた感情を全力で演奏に乗せます。リズと青い鳥、二人の気持ちを乗せた渾身の演奏。掛け合いながら力量の差に気付いてしまう希美と、伸びやかに演奏するみぞれの描写はお互いの立場が逆転してしまったようで心苦しいシーンでした。まだハッピーエンドにさせてくれないのかって。
 ショックを受けながらも自身の力量を認める希美とみぞれの終盤のシーン。みぞれの気持ちが中々ヘビーだなあと思いましたが、みぞれは希美に吹奏楽に誘ってもらえて本当にうれしかったんだなあと思うシーンでもありました。言葉が足りなくて、その思いは愛にも似た複雑な感情になってしまっていましたが。その、みぞれの重い愛を受け止めきれずによろめく希美が踏ん張って出た答えが希美の出した答えだったのだと思います。

 物語の最後は冒頭と同じように二人が歩くシーン。赤い瞳に青い瞳、黒のソックスに白のソックス、揺れるおさげと静かな足取り。一つ違うのはそれぞれが別々の場所に歩き始めたこと。下校時に校門で待つのは希美、そして、そして、二人で並んで歩く。きっと、やっと二人は友達になれたのだと思います。
 

 最後、スタッフロールでリズと青い鳥が同じ声優さん(本田望結さん)だと分かった時、心の中でガッツポーズしました。


儚くも情熱的な青春映画として是非、後々まで語り継がれていってほしいと思います。
この作品を見るまで希美とみぞれがこんなに魅力的になるとは思いませんでした。
静かで美しい二人の物語を描いてくれた山田尚子監督、ありがとうございました。